餌やり自粛キャンペーン活動に至る経緯について
餌やりがおよぼす悪影響を実際に観察
私たち井の頭かんさつ会のメンバーは皆かねてより餌やりを問題視していました。それは塩分や脂肪分が多い人間の食べ物が鳥の身体に悪いのではないかとか、水質を汚染するといった、少しはっきりとはわかりにくいものでしたが、2006年にカイツブリの生態に異変が起きたことで、私たちは目に見えるはっきりした形での餌やりの悪影響を再確認しました。
話が長くなりますのでここでは何が起きたかの詳細を割愛しますが、簡単に一言で言うと「人の与える餌に依存してしまった幼鳥が自ら餌を採ることを覚えず、後から生まれた雛鳥を競合相手として次々死に追いやってしまった」という事件があったのです。
(詳細は井の頭かんさつ会、田中利秋代表のホームページ「自然原理主義」に記事が掲載されています)
これが私たちが後に行動することになる大きなきっかけとなりました。
この「事件」は2006年10月23日付朝日新聞でとりあげられました
行動開始!
餌やりをやめてもらうことはできるか
餌やりの様々な弊害を見てきた私たちにとって、カイツブリの暮らしに引き起こされた異変は大きなきっかけになりました。これはもう放っておけません。私たちは話し合った結果、行動を起こすことにしました。誰かが声を上げて行動しないと何も変えられないのです。
私たちは今までも餌やりを見かけると個別にやめてもらうようお願いしてきました。一部わずかな確信犯の人々を除き、ほとんどの人が生きものに餌をやることの弊害を知らないだけで、説明するとすぐに理解して止めてくれます。以前に「餌やり」をどう考えるかアンケートを実施したことがありますが、8割以上の人が「やめてほしい」と考えているという結果を得ています。ただ、井の頭公園の利用者は大変多く、次から次へと餌をやる人が絶えないので、とても私たちだけでは対応しきれません。
そこで、公園の管理者である西部公園緑地事務所に要望書を提出し、協働で餌やりを抑制できないか相談しました。ほとんどの人が餌やりを良くないと考えているデータであるアンケートも添えました。もちろんすぐにとんとんと話が進むものではありませんでしたが、ちょうど公園は100周年を控えて「よみがえれ!!井の頭池!」運動を立ち上げており、池の水質浄化を主な柱に、東京吉祥寺ライオンズクラブや私たちのような環境系の市民団体と一緒に協働を始めているところでした。私たちはこれら各団体にも餌やり問題を相談しました。池の水質悪化の原因でもあり、問題意識は共通でした。こうして私たちは「よみがえれ!!井の頭池!」運動をお手伝いし、一緒に諸問題に取り組むことになりました。
さて協働するにあたり、問題点を再整理して共有しておくことが不可欠です。各団体、各個人がばらばらなことを主張しては、意見を聴く側は混乱し、啓発の効果が半減してしまいます。井の頭かんさつ会内部でも、強硬派と穏健派のような感じで若干の意見の違いがありました。それぞれ意見を出し合い、調整の上でまとめたのが現在「餌やり自粛」のチラシに掲載している以下の内容です。
コイやカモなどにエサをえる「エサやり」は、なぜ問題なのか。
コイやカモなどにエサを与える「エサやり」は、池にも池の生き物にも有害です。
1) 池の水が汚れます
大量に投げ込まれるエサは、フンとして出されるものも含め、水質を悪くする原因になります。また、エサやり目当てに集まる水鳥などが増え、それがまた人の目を引きさらにエサやりが増える、という悪循環に陥っています。
2)生き物の健康によくありません
与えているエサの多くは人のための食べ物なので、野生動物には望ましくない成分が含まれています。また、たくさんの人がエサを与えるのでコイやカモが異常に太っています。
3)生き物の生活が狂います
エサやりの影響で自然の営みがゆがんでしまうのも問題です。野性を失い人からのエサに頼る動物が増え、また、増えた動物のせいで減ってしまった生き物がいます。きれいな水にしか棲めない魚は絶滅してしまいました。
生き物に必要なのは、人からのエサではなく、自分で食べ物を採れる場所です
上記のような問題点が理解されるにつれ、エサやりを禁止するところが増えています。野生動物を本当に助けるには、自然の食べ物が十分得られる良好な自然環境を整えることが欠かせません。「よみがえれ!! 井の頭池!」運動はそのことも目指しています。池の生き物たちのために、 エサやりはやめましょう!
そして、アクションへ!
餌やり自粛キャンペーンの実現
機は熟しました。2007年3月4日、官民協働で「餌やり自粛キャンぺーン」が実現の
運びとなりました。東京都建設局西部公園緑地事務所、東京吉祥寺ライオンズクラブ、NPO神田川ネットワーク、私たち井の頭かんさつ会、井の頭バードリサーチ、呼びかけに応えて応援に来てくれた各地の自然観察指導員など総勢約50名が集まり、野外ステージで大発会を行った後、各自公園中に散らばって、来園者にキャンペーンのチラシを配りながら餌やりの自粛を呼びかける大々的な活動に取り組みました。井の頭池のあちこちには餌やり自粛を呼びかける立札やポスターが掲示され、以前よりも問題提起が伝わりやすくなりました。
新聞報道でも多大なご協力をいただき、井の頭公園という都内の有名な公園で餌をやることが良くないのでやめましょう、という呼びかけが行われたことを世の中に広く知ってもらうことができました。
また、餌を売っていた側の売店・茶店の方々にもご理解とご協力を賜り、「餌として」売っていた麩の販売を止めていただいた上で、餌やり自粛を呼びかけるポスターを店頭に掲示していただいています。
こうして多くの関係者の協力と努力の結果、井の頭公園では餌やりが激減し、人と生きものの理想的な距離・関係に少し近づくことができたのです。
ただ、これで問題がすべて解決したわけではありません。まだまだ餌やりの弊害を知らない人は世の中に山のようにいます。今後も継続して普及啓発活動を続けていく必要があるわけです。
事前の新聞報道。多くの市民に問題提起するための支援をしていただいています。
キャンペーンで配ったチラシ。餌やりがよくない理屈だけでなく、片面は水鳥図鑑になっています。餌やりではなく観察で楽しみましょうという趣旨で作成しました。
その後も続く餌やり自粛キャンペーン
餌やり自粛キャンペーン活動のその後
餌やり自粛キャンペーンの継続
2007秋の自粛キャンペーン風景池のボート乗り場も餌やり自粛の呼びかけに協力してくれている
餌やり自粛キャンペーンの効果は絶大で、今では井の頭公園で生きものに餌をやる人はとても少なくなりました。それでも、今の状況に甘んじて何もしなければ、再び餌をやる人は増加してくると考えられます。初めて来園する方は全く知らないで行動しますし、そういう方がしっかりと「餌やり自粛」の看板を認識できるとは限りません。
そこで、私たちは毎年秋にカモが飛来し、その数が増えてくる頃から定期的に餌やり自粛パトロールを続けています。活動は月に2回程度で、本当は毎週でもやりたいのですが、実は餌やりを自粛したことで新たな問題が浮き彫りになってきて、その対応に労力を注がなければならなくなったのです。それが「井の頭池の外来種問題」です。
2008年11月のキャンペーンキャンペーンのカンバッジも制作