第66回井の頭かんさつ会レポート

第66回井の頭かんさつ会

テーマ:「望年観察会~春を望む生き物たち~


日時: 2010年12月18日(土) 午後2:30~4:30

場所: 井の頭公園

集合: 午後2時15分 井の頭池ボート乗り場前

主催: 井の頭かんさつ会

後援: 東京都西部公園緑地事務所

案内:

田中 利秋(NACS-J自然観察指導員)

小町 友則(NACS-J自然観察指導員、森林インストラクター)

高野 丈(NACS-J自然観察指導員)

大原 正子

高久 晴子

佐藤 誠 (NACS-J自然観察指導員)

田中 雅子(NACS-J自然観察指導員)

日置 日出男

大橋 博資

上村 肇

竹内 隆一(NACS-J自然観察指導員)

参加者: 24名


望年会

日時: 2010年12月18日(土) 午後4:45~6:45

会場: 吉祥寺駅近くの店

参加者:22名(含むスタッフ)


レポート

年末の宴会をどうして「忘年会」というのでしょうね。 たとえ辛かったこと苦労したことがあったとしても、過ぎ去ったことを忘れる必要はないはずです。 それをバネにして前向きに年を越すほうが、よほど未来は明るいと思います。 私のそんな積年の疑問、違和感が今回のテーマを生みました。 人間以外の生き物は過去を振り返って後悔したりしません。 次の春を見通して冬を前向きに生きている生き物たちを観察して元気をもらい、 我々も前向きに年を越そう、というのが今回のねらいです。

しかし、それを観察会にするのはそう簡単ではないことがスタッフとの下見で分かりました。 目の前の生き物を観察するだけでなく、その暮らしぶりを思い描くことができないと、 前向きかどうか実感できないからです。 そこで、いわゆる「生存戦略」が違う生き物を対比させることで、それを分かってもらおうと考えました。 また、今回は日没時刻までの観察会なので、後半は明るさが減少し、遠方や細部の観察が難しくなります。 その問題に対しては、多少暗くてもできる目新しいアクティビティを用意して終盤を盛り上げることにしました。

さて本番。空は晴れ渡り陽射しが暖かい絶好の自然観察日和です。 馴染みがないテーマのせいか、参加者は24名と少なめでした。 今回は班分けをせず、全体を11名のスタッフで案内します。 ちょうど七井橋の改修工事が始まったため、そこを避けたコース設定としました。 今回はむさしのFMと読売新聞の取材も入りました。

ポンドサイプレスやハナミズキ、コブシなどから観察を開始。 春早くに花を咲かせるためすでに蕾の準備を済ませている樹です。 さらに前向きさが分かりやすいのは、わざわざ冬を選んで花を咲かせているヒイラギやヤツデなどです。 少ない虫を呼び集めるための工夫を観察しました。 それに対してトチノキなどはライバルの花が多い時期に花を咲かせます。 そこにはそれにふさわしい工夫があることも解説しました。 「どちらが前向き?」と参加者に意見を聞いてみましたが、答えに困っていたのは当然のことで、 戦略が違うだけで、どちらも前向きなんです。

実をものすごい勢いで鳥に食べられているムクノキと、 まだほとんどくちばしを付けられていないイイギリとの戦略の比較もしました。 サヤが弾けて8mも豆を跳ばすフジと、 サヤごと風や水で運ばれるサイカチのサヤの造りの違いを実際に手に取って観察しました。

建物の軒下や樹名板の裏などを探すと、ミノムシ、コカマキリやマイマイガの卵塊、ヨコヅナサシガメの幼虫、 テントウムシなどが見つかりました。卵を産み終えたばかりのジョロウグモもいました。 ヤツデの花にはハエが来ていました。 虫たちは卵、幼虫、サナギ、成虫と、種類によっていろいろな姿で春を待つのです。

草の冬越しのようすも観察しました。 種で冬を越す草もありますが、 例えばセリバヒエンソウは晩秋にいっせいに発芽しまるで貝割れ大根のような姿でびっしりと地表を覆って冬の陽射しを吸収します。 トキワツユクサは冬も枯れることなく茎を伸ばしツヤツヤの葉を茂らせています。 いずれも元は園芸用に持ち込まれたものが雑草化して蔓延しつつある外来植物です。 繁栄の裏にはそれなりの努力があるのですね。

根っこで冬を越す草のことも忘れてはいけません。 かんさつ会の終盤は、今回特別に公園の許可をいただいた、 草の根の観察です。カラスウリのツルの根元を掘り下げていくと大きな芋が見つかりました。 次は、私自身も見たいと思っていた、シャガとシラユキゲシです。 どちらも種ができないのにどんどん広がっている植物です。 スタッフが注意深く土をどけていき、それを皆が見守ります。 地中の浅いところに地下茎が絡み合うように伸びていることが分かりました。 最後は、別のスタッフが並行して掘っていてくれたヨウシュヤマゴボウの根を見に行きました。 枯れた太い茎が3本も出ている大きな株です。 その根はゴボウもダイコンも遠く及ばない巨大な塊だったので皆びっくりしました。 掘り返したものはすべて元のように埋め戻し、最後にまとめの話をしてかんさつ会を終えました。 皆の顔色が明るかったので、生き物たちの姿に前向きな気持ちをもらえた人が多かったのではないかと思います。

かんさつ会に引き続き、子供も含む22名が参加して「望年会」を行いました。 今回は時間が早かったので二次会もあり、熱くて楽しい議論が続きました。

井の頭かんさつ会は今年もいろいろな進展がありました。 これも、ご参加いただいた皆さん、ご支援いただいている皆さんのお陰です。 そのことに感謝しつつ、来年もいろいろな工夫を重ね、さらに楽しくためになる観察会にしていきます。 来年もよろしくお願いいたします。2011年が良い年でありますように! いや、良い年にしましょう!!

(レポート:田中 利秋)