第89回井の頭かんさつ会レポート

 「井の頭池と生き物たち ~そのいまとこれから~」

日時:2012年10月20日(土曜日)午前10:00~12:00
主催:井の頭かんさつ会
後援:東京都西部公園緑地事務所

案内:
田中 利秋(NACS-J自然観察指導員)
大原 正子
上村 肇
竹内 隆一(NACS-J自然観察指導員)
佐藤 誠(NACS-J自然観察指導員、森林インストラクター)
田中 雅子(NACS-J自然観察指導員)
大橋 博資
日置 日出男(森林インストラクター)

協力:
外来魚調査活動同志 3名

参加者:17名(大人14子供3)

レポート

 井の頭池の「かいぼり」が実現しようとしています。水の濁りと外来魚問題を解決または改善し、良好な生態系を取り戻すのが目的です。西部公園緑地事務所が現在その計画を策定中で、開催中の「全国都市緑化フェアTOKYO」でも展示を行っています。外来魚問題の解決を目指して調査と啓発の活動を続けてきた我々も、それに合わせて今回の観察会をかいぼりをテーマに実施することにしました。参加者に池と池の生き物を実際に観てもらい、なぜ今かいぼりが必要なのか、良好な生態系を再生し維持していくためにはどんなことが必要になるのか理解を深めてもらうことを目指します。各所で魚などを探して外来魚問題の現状を実感してもらうとともに、生き物たちが暮らしていくのに必要なそれぞれの条件についても知ってもらいたいと思います。水の濁りの問題については、濁りの正体である水中の植物プランクトンや、それを食べる動物プランクトンを実際に観てもらうほか、植物プランクトンが増える原因となっている水の富栄養化について知ってもらうため水質検査も実施することにしました。

 池の生き物を観察するのに最適な、すがすがしい秋晴れです。観察メニューが多いので、スタッフはいつもより早く準備を始め、必要な器材をお茶の水池北岸のベンチへ運びました。そこに器材とスタッフの一部を残し、いつものボート乗り場前から観察会をスタートしました。コースは、ボート乗り場前→七井橋→ボート池北岸→ひょうたん池・在来種保護池→ボート池北岸→そしてお茶の水池北岸ヨシ原前ベンチです。その間、岸辺の植物や水鳥などに注意を向け、仕掛けておいたオダアミやカゴワナを上げてどんな魚が入っているか調べ、スタッフが池に入って網で魚やエビを探し、保護池の状況を見学し、数箇所でプランクトン観察用と水質検査用の水も採取しました。そしてヨシ原前のベンチで、見つかった魚やエビの詳しい観察と、水の中にいるプランクトンの顕微鏡観察、水質検査を行いました。

 オダアミやカゴワナに入っていたのはブルーギルの稚魚ばかりでした。水中に伸びだした木のひげ根を網で掬ったら、在来種テナガエビの稚エビなどもいくらか見つかりましたが、やはり多いのはギルの稚魚でした。絶滅が心配されている在来種、モツゴやトウヨシノボリやスジエビはこの日1匹も見つかりませんでした。網やカゴワナでは獲れないサイズの外来魚も観てもらうために、本隊がコースを回っている間に他のスタッフが手釣りを試み、オオクチバス5匹と大きなブルーギルを釣り上げました。外来魚のバスとギルは今もたくさんいて、そのせいで在来種が減ってしまっているのです。稚魚や稚エビがひげ根の中やヨシの茂みにいたのは、外来魚などの捕食者から逃れるためです。本来は水生植物がその役割をするのですが、現在の井の頭池にはそれが少なく、特に沈水植物がまったくないのが問題です。かいぼり時には水生植物を増やすための工事も行われる予定です。

 ひょうたん池の在来種保護池では、かいぼりが済んだ池に放流するために「いけす」で保護しているモツゴを見てもらいました。なぜいけすが必要なのかというと、バスやギルなどが多数侵入して、保護していたはずの在来種を食べてしまったからです。多くは柵の隙間から侵入したらしいのですが、故意に放流されたとしか考えられない大きなバスも見つかっています。我々は侵入種を捕獲して除去してきましたが、小さな保護池でも完全除去は困難で、保護対象種はほぼいなくなってしまいました。この事実は、当初の案にあった、井の頭池を二分して二年かけてかいぼりするという方法では、外来魚をいなくすることはできないことを示しています。そのため我々は、井の頭池全体を同時にかいぼりするよう要望しています。また、せっかくかいぼりをしても再び外来魚が密放流される可能性があるので、我々も参加している「井の頭外来生物問題協議会」は公園管理者と警察と来園者が連携して密放流を防ぐ体制を作るべく警察と話し合いを進めています。

 じつは保護池への侵入種の筆頭はアメリカザリガニです。保護池にカゴワナを設置して侵入種の調査を続けているのですが、ザリガニがほぼ毎日入ります。そのすさまじさを実感してもらうために、10月11日以降に保護池で獲れたザリガニを生かしておいて、参加者に見てもらいました。この日は5匹も入っていたので、それを足すと10日間で19匹になりました。ところが一同驚いたことに、それで終わりではなく、一匹のメスが抱えていたらしい稚ザリガニが百匹以上も一緒に獲れたのです。保護池に放たれてしまったものも多かったでしょうから、保護池はさらにザリガニだらけになりそうです。ザリガニは泥に穴を掘って隠れるので、かいぼりでの完全駆除は無理です。天敵のバスがいなくなった池で爆発的に増えることが予想され、増やそうとする水草に大きな被害を与える心配があります。失敗した在来種保護池ですが、かいぼり後の井の頭池の姿が見えるとも言えるので、我々は今後ここでアメリカザリガニの生息数を抑制する実験を行いたいと考えています。なお、保護池の改善策についても西部公園緑地事務所で検討が進んでいます。

 プランクトンの顕微鏡観察と水質検査は初めて体験する人が多く好評でした。水質検査をすると、井の頭の湧き水には窒素が多量に含まれていること分かります。リンが供給されるだけで植物プランクトンが増え、水が濁るのです。植物プランクトンを減らし水の透明度を改善すると期待されているのがミジンコを始めとする動物プランクトンです。しかし動物プランクトンは小魚の格好の餌になるので、全部食べられてしまわないようにするには、隠れ場所となる水生植物が必要です。水生植物は窒素やリンを吸収して育つので、池の水の富栄養化を抑える効果も期待できます。しかしザリガニが増えると水生植物が増えられないかもしれません。

 池の中にも生き物と環境、生き物と生き物との複雑なつながり合いがあり、さらに人間の行為がそれに加わります。それらを十分考慮してかいぼりを行わないと生態系の再生と維持はうまくいきません。なかなか難しい話ですが、いろいろ観ていただいた参加者の皆さんには理解していただけたことと思います。

 かいぼりの計画策定担当者である工事課の田中淳一さんが途中から参加してくださったので、最後にご挨拶をお願いしました。田中さんはかいぼりで目指していることを話されるとともに、協力を呼びかけられました。大がかりなかいぼりの成功には多くの市民の参加が必要です。今回は、田中さんが作成され緑化フェアで配布されているかいぼりチラシをご提供いただき、参加者への配布資料のひとつとさせていただきました。我々は今後も池での活動時にそのチラシを来園者に配布し、かいぼりへの理解と協力を呼びかけていきたいと考えています。

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(レポート:田中利秋、写真:上村肇)